ある老人保健施設の誠意

寒の戻りで冷え込んでいたある日。その施設のショートスティから自宅へ帰ってくるお年寄りがいました。

この家は六年間老老介護を続けている家庭。

夫が在宅のスタッフの力を借りながら一生懸命に妻を看てきました。

夫はショートステイから三日ぶりに帰ってきた妻を見て驚きました。

これだけ冷え込んでいるのに、用意をしていたマフラーや上着を着せられることもなく妻は帰ってきたのです。

これを見て一気に夫のその施設への信頼は吹き飛びました。

ここまででこの話は終わりません。これでこの話が終わるようであればこの施設のレベルは上がらなかったでしょう。

彼らはその苦情を正面から受け止めました。

そしてそのフロアのスタッフを集め会議を開き、この出来事を振り返りました。

僕もその会議のまとめを読みました。

その議論では施設の中にいたらば外気温はわかりにくいという消極的な発言もあったようです。

ですが、その発言もみんなの力で検証し、体力のない高齢者を見守る施設として注意力に欠けていたという極々当たり前の結論が導き出されるまで話し合いがなされたのがその文書には示されていました。

人が誤りを認めることはとても勇気がいります。

また、日ごろ業務に追われていれば気づきがおろそかになることも多々あります。

これで終わってしまう施設であれば僕もこの施設の評価を変えていたでしょう。

しかし、きちんとスタッフが振り返り、誤りを皆で確認し、福祉労働の原点に立ち返る営みを行えたことはその施設が利用される方を「人として」見つめる誠意を持ち合わせていると言うことです。

この誠意はわたしたち介護に携わる者皆が離してはいけない大切なものです。

この施設に感謝したい。原点を僕たちも学ばしていただきました。

ありがとう。