独り暮らしのお年寄りが亡くなった。
「要介護5」歩行もできず、他者の支援が無ければ生きる事はできない人でした。
年単位(家庭復帰の例年はどこに?)の「老人保健施設」入所後、彼は家に帰り生活を始めました。
退所時お家に向かい入れたのは同じく「要介護5」の妻でした。その妻の存在も時々忘れてしまう認知症の男性です。
精神疾患もあり周囲を困らす妻に「がんばれやー」と励ましていた優しい夫でもありました。
妻が先に逝き、その後は後見人と公的な支援グループで彼を支えてきました。
数日前から嘔気の訴えがあり、訪問診療の医師と入院の手配もしていました。
入院の前日、看護師や医師の判断でも緊急性はないと判断し、翌朝の入院手配。
入院当日の早朝も「Oさん、病院に行くよ」の僕の呼びかけに「行ってもようならんやろ」と普通に答を返していらっしゃいました。
迎えに来た介護タクシーに乗り込むときも普通に会話、そして病院に到着。
そのタイミングで彼の心臓は突然に止まりました。
医師、看護師の懸命の蘇生措置にもかかわらず彼は帰らぬ人になりました。
彼に関わってきたわたしたちにとりこの突然の出来事は残念でなりません。
でも、よく考えると彼が亡くなる前に取り戻したものが沢山あった事に気がつきました。
自分の今住む場所が自分の家であることも分からなかったのが自分の家だと思いだしました。
忘れていた妻の記憶も鮮明に思い出し、「ワシが元気になれば見舞いに行く」と。
忘れていた孫やひ孫のことも思い出してお家で涙の再会。
自分では食事を口に運ぶ事もできなかったのにいつの間にか自分で口に運ぶまでに。
リフトが無ければ移乗もできなかったのが、リフトを撤去しようと考えるまでに回復。
彼の介護に関わる多くの人に多くの感動を与えてくれました。
こんなエピソードも。
亡くなる前日、夜間のヘルパーに「世話になるなぁ」と伝え、そして自分の生年月日を話してヘルパーに「覚えといて」欲しいと伝えたとも聞きました。
このように多くのものを取り戻し、これからの彼の人生が楽しみだなぁと考えていた矢先、突然の出来事でした。
老人保健施設の長期入所で失ったものを沢山取り戻し、それから旅立たれた彼は決して不幸では無いと思います。
ご冥福をお祈りします。あの世で奥様と楽しくお喋りして下さい。